オリエント・エクスプレス
拙稿「イスタンブール旅行 vol.2」でオリエント・エクスプレスに触れた。イスタンブール・シルケジ駅についてのくだりである。驚いたことに先日そのオリエント・エクスプレスに出会った。しかもブカレストにおいてである。
先週末にシナイア旅行をした。その様子は「シナイア旅行」として書いた。このオリエント・エクスプレスに出会ったのは、シナイアへ向かう朝のことであった。
ルーマニア随一の規模を誇るブカレスト北駅(Gara de Nord)は、オリエント・エクスプレスが活躍したころの往年の面影はなく、現在は、ヨーロッパの首都にある主要駅と比較した場合間違いなく三流である。
ブカレスト北駅の東端のホームに佇む群青色のその一編成の姿は華麗の一言に尽きる。余りにも不釣合いな駅舎とその設備に、小生はルーマニアにいることを再認識するのである。ところで、オリエント・エクスプレスと言えば、アガサ・クリスティ(Agatha Christie)の名著「オリエント急行殺人事件」と、その映画が大変有名であるが、目の前にすると、溜息が優先で思い出すことも忘れていた。
そのホームへのアクセスは厳重な警備で禁止されており、乗客以外はマスコミを含む関係者にのみ許されている。線路を2本隔てた隣のホームもその東側は警備員を配置している。彼らは制服につけられた写真入り身分証明書から國鉄職員であることがわかるが、警察も配置されていた。乗客は居らず、こちらも華麗な制服に身を包んだ乗務員が客車から見えた。列車は前日もしくはそれ以前に入線し、ブカレスト市内にホテルに宿泊している乗客を間もなく迎えるのであろう。
11両編成の各車両の側面には中央のエンブレムを挟んでサボ(サイド・ボード=案内板)が2枚掲げられており、左側には「ISTAMBUL-BUCURESTI-SINAIA-BUDAPEST-WIEN-VENEZIA」と経路が、右側には「VENICE SIMPLON-ORIENT-EXPRESS 1982 2006」と列車名が読み取れる。前者は発音記号はともかく各國語が尊重されているが、後者は「VENICE」と英語表記になっているのが気になった。もっとも「VENICE SIMPLON-ORIENT-EXPRESS」は固有名詞としても有名なのだが。気になったのはもう一点。トルコからルーマニアに向かうにはブルガリア東部を縦断が不可欠であるのだが、ブルガリアの地名は見当たらない。恐らくは各國境駅での停車のみでハイソサイティーであるべき乗客はブルガリアの地を踏まなかったのではないか。とはいえ、車内で過ごすことに意義がある旅であるはずだから、それはそれで良いのだろう。
改めてサボを見て、これからシナイアへ向かう小生と客人は溜息を吐いた。
我々はルーマニア國鉄の最高級列車インターシティに乗車して一足先に北へ向かったのだが、車窓からオリエント・エクスプレスの先頭にある牽引車を見てがっかりした。ルーマニア中にある珍しくも無いルーマニア國鉄の電気機関車だった。グレーが基調で赤のラインのこれまた不釣合いなものであった。國際列車が國境を跨いだ、もしくは跨ぐ直前の駅において乗務員と牽引車の交代を行うのは知っているが、この特別編成にはあまりにも似つかわしくなかった。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の新年コンサートにジーンズで入場していた旅行中の青年を思い出した。もっとも彼は立見席で床に座っていたのだが。
ところで、このオリエント・エクスプレスは、現在は特別列車として不定期運行をしている。乗客はツアー形式で募集されるので、高額な参加費で乗車可能だ。併し教養が無いと大恥をかくことだろう。詳細は参考サイトをご参照のこと。
参考サイト
オリエント・エクスプレス http://www.orient-express.co.jp/
Labels: 旅行:ルーマニア Romania
1 Comments:
こんにちは。オリエントエキスプレスの記事、楽しく読ませて頂きました。以前、徒然にベルリンとイスタンブール間の鉄道の旅程をドイツ鉄道のサイトで調べたところ、ベオグラード経由ではなく、ブカレスト経由の旅程が表示されました。そのときは新ユーゴ、モンテネグロという問題地域を通るよりもそれを避けてルーマニア経由にした方が良いよということなのかと思いましたが、実は今でも幹線はオリエントエキスプレスのルートであるブカレスト経由なのかもしれませんね。シンプロンエキスプレスのような豪華列車でなくても、いつか鉄道を使ってイスタンブールを訪れてみたいものです。
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