ルーマニア 晴れ時々曇り

ルーマニア・ブカレストに暮らす小生の備忘録。 連絡は、次のアドレスまで。迷惑メール以外は歓迎します。 Bucurestian(at)gmail.com

Thursday, September 21, 2006

ガレ

カタカナで「ガレ」と綴ると小生には二つの意味が交錯する。
それらは実際のところ互いにおいて大いに関係がある。
併しながら、その言葉の使用法に100%の理解を得るには少々複雑だった。

1846年にフランス・ナンシーに生まれたエミール・ガレ(Emile Galle,-1904)は、いくつかの顔を持っていたが、現在においてこの名前に反応する殆どの人はその芸術家としてのものにであろう。彼が創始者となったガラス工芸技法、もしくは彼がその技法で製作した作品が「ガレ」と呼ばれている。他方、もう一つの意味があることを冒頭に述べた。それは、同じ技法を使用もしくは同じような仕上がりをされた工芸品(言うならば「ガレ風」)をも「ガレ」と呼ぶことにある。
前者は、美術品もしくは骨董品的価値からはエミール・ガレ本人の作品でなければならない。後者においては前述の通り複製品である。複製品といえどもエミール・ガレの作品のデザイン的な意味でのコピーではなく、その技法の利用を経て出来上がった「ガレ風ガラス工芸品」と言える。実際のところ、これら「ガレ風ガラス工芸品」には「galle」との文字とともに「TIP」という文字が見える。これはルーマニア語であるが英語で言うと「TYPE」に相当する名詞である。この3文字がないと贋作ということになるので重要である。
因に、当地では「ガレ」とは創始者の作品の真贋の為の言葉ではなく「ガレ風ガラス工芸品」として使われている。ルーマニア語においても「ガレ風ガラス工芸品」は名詞として「galle」と一般に使われている。補足するとエミール・ガレ本人の作品であっても同じ言葉を使う。


「ガレ」ランプと奥に花器


ヨーロッパでアール・ヌーヴォーが成熟する頃にエミール・ガレが亡くなった後、その伝統はフランスからヨーロッパ諸国に弟子や職人を伝道者として伝播することになる。当地ルーマニアにおいては、いくつかのルートで伝わったようだ。エミール・ガレのイタリア人弟子がルーマニアに住みその技術を伝えたという話と、ナンシーで学んだルーマニア人が母國に戻ってきて、その技術を伝えたという話。いずれにせよこれらの話はルーマニアのブザウ(Buzau)に辿りつく。

ブカレストから北北東の方角へ列車で2時間弱にブザウ県の県庁所在地ブザウ市がある。ガレ風工芸品とガラスの街として有名である他は、これと言ったものは無い。トランシルヴァニアの都市クルージ・ナポカ(Cluj-Napoca)で19世紀に始まったウルスス(URSUS)という銘柄のビールが、それまでのルーマニア史上最大の米貨3000万ドルを投資して新工場を最近稼動させた話はあるが、ブザウ県全体を見渡せば第一次産業の土地と言って良い。因に最近ビール瓶を茶色から緑色にかえたURSUSの工場は他にティミショアラ(Timişoara)とブラショフ(Braşov)にもあり、第一号のクルージ・ナポカと合わせて計4工場体制で全國に流通している。

今回は日本からいらしたお客様とブザウにあるガラス製品会社を一緒に訪ねた。商談である。この会社はガレ風ガラス工芸だけではなく、各種グラスをドイツ、オーストリア、イタリアそしてアメリカ等へ輸出している。中でもドイツの有名なゼクト(シャンパン)「Menger-krug」の専用グラスを請け負っており、それらはドバイの6つ星ホテルでも見掛けることができるということだ。なお、このグラスはMenger-krug社のホームページの表紙に写っている。

見学したギャラリーにあったガレ風ガラス工芸品は、ランプやランプシェードそして花器が殆どであったが、セット品を除いてデザインや大きさは異なる。全工程が手作業の完全ハンドメイドであることが「ガレ」の人気の一つだろう。デザインは、エミール・ガレが好んでいたように蜻蛉や花などの生物と風景といった自然に由来するものばかりである。絵付けの作業場には、塗料として使用する薬品が嗅覚を刺戟するが、熟練の筆使いは見事なものだった。


絵付け職人の技 60人もの絵師を抱える


事前にガレについての勉強を行ったのであったが、今回経営者からきいた話はガレについて以外にも共産党一党独裁時代という現在とは異なる社会体制下でのブザウでのガラス製品産業に及び、大変参考になる興味深い話ばかりであった。

この「ガレ」つまりルーマニア産「ガレ風ガラス工芸品」は、日本では人気でありその需要も増えつつあるとのこと。それらしく言えば「静かなブーム」と言う言葉で宣伝されかれない頃合ではないかと考える。「ガレ」についてはこれまでにも日本の知人やお客様からの話を聞かされることも良くあったが、小生は余り興味がなかった。ユーゲント・シュティールを除いたアール・ヌーヴォーで興味があるのは、アロフォンソ・ムハのみであるからだ。併し、今回その製作現場とギャラリーを見学して随分と興味が湧いたのであった。土産物の選択余地の少ないルーマニアのなかでその主要な地位を占めている「ガレ」。小生の次の帰國には小さな花瓶でも持って帰ろう。

最後に冒頭に三度戻るが、簡単に理解して貰える例えは、「シャンパン」である。フランスのシャンパーニュ地方産の発泡ワインとその他の産地の発泡ワインを考えていただければ良い。つまり、これからは「ガレTIP」と呼べば良いのだ。

参考サイト
URSUS www.ursus.ro/
MENGER-KRUG社 http://www.menger-krug.de/

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