火事
昨夜のことだ。すっかり暗くなった18時ごろ、パソコンに向かって仕事をしていると小生の小さな鼻が煙の臭いを探知した。使用時以外には台所のガス栓は閉じている。煙草に縁のない小生は煙に敏感である。となると、それは外部からのものである。戸締りしているのに、煙が入ってくるのだ。隙間風と同じ通路をたどるのであろう。部屋には冷暖房の室外機への配管と壁との間に隙間がある。小さな隙間であるが換気もできるから、前向きに思って放っておいたのだ。
隣の住民に訊いても「地階の店舗跡が焼けている」というだけで、大変のんびりしている。一方向かいに暮らす女子大生の慌てぶりは対照的であった。女子大生は小生を招いて中庭側に面する彼女の部屋から煙を指摘する。この時に小生は少しばかり頭を使って状況把握を試みた。彼女の指した煙を吐く窓は中庭側1階。隣人が指摘する延焼中の場所は外側(通り側)地階。つまり入り口がひ一つしかない小生らの暮らすこの築110年を越える建物では、孤立状態に置かれたのかなと。
部屋に戻り、大渋滞の通りを見下ろすと、隣人の指摘する箇所はその真下に当るので小生の視点から炎は見えない。通りの向こう側では見物人が大勢立ち止まっている。彼らは見上げることもしていないので、恐らく視線の先の地階の店舗跡が延焼中ということだろう。煙もあまり見えないが臭いだけは、窓から身を乗り出して、撮影を試みた小生の鼻を突いた。併し、こんな時に限って電池切れとはなんとも情けない。
少し先の交差点で交通整理に当っている警察官がやって来るのが見えたが、様子を伺うだけで180度方向転換して持ち場へ戻っていった。火事の現場は大渋滞の通りに面するにも関わらず、交通整理をしないと言うことは、つまり大したことではないと小生も安心した。この警察官が持ち場へ戻る途中にサイレンを鳴らした消防車が3台大渋滞の一方通行の大通りを逆行して到着。大渋滞でストレス解消のための警笛ばかりを鳴らすマナーの悪いブカレストのドライヴァー達も道を譲っていた。
到着後早速の消火活動が始まったが、ルーマニア人とは思えないテキパキとしたものだった。日本でも野次馬として火事の現場に居合わせたことがあるが、日本の消防隊員の方が優れていると思った。消火活動は小生の真下であった為未確認であったが、現場付近の整理がおろそかであった。近づきすぎた野次馬やマスコミにのみ、その都度注意を与えているだけだった。ロープを張るなりはせず、大渋滞中の交通もそのままであった。後者に関しては必要がないと判断したからかもしれないが。
撮影を断念した小生は、依然窓から身を乗り出したまま電話で知人に実況していたら、ドアが強く叩かれ応対を求められた。扉の前には銀色の消防服を纏った長身の男が息荒く「すぐ避難して下さい」と。
向かいに住む名前も知らない可愛らしい女子大生からは「怖いので一緒に降りて下さい」と言われるも、小生には余裕があったのか、貴重品とノートパソコンそしてコートの準備をして玄関に行くと彼女はもういなかった。
冷静だった小生は、リフトを使用せず階段を使用。火事の被害者の多くが煙を吸い込んだことによる一酸化炭素中毒であることが頭にあるのでマフラーで口と鼻を覆いながらの避難である。このマフラーは役に立った。階段を下るに連れて、煙で視界が遮られるほどになるのであるから。
避難すると入り口のそばで、避難した住民達がおしゃべりをしている。愛玩動物を抱える人々は何人もいたが、その他の住民は何も持たずに避難していた。鎮火間近であったせいか、みんな余裕があったのであろう。部屋に戻れないことだけを気にしていた。そして顔見知りの住民達からは小生の首に巻かれたステアウア・ブクレシュティのマフラーについて指摘された。「大事なものだから。焼くわけにはいけないよ」と言えばみんな大声で笑ってくれた。
Labels: ブカレストの日常
1 Comments:
冨山さん、火事、無事で良かったですね。
そちらのお天気はいかがですか。ベルリンは今年も暖冬です。まだ雪の降ったのを見ていません。
Post a Comment
<< Home