ジャズ・コンサート鑑賞
友人に誘われてジャズ・コンサートへ出掛けた。
ブカレストには人気のジャズ・バーがある。予約をした方が確実にテーブルにつけるという店だ。そこではジャズのライヴを数回聴いたことはあるのだが、紫煙と飲食物のないなかでのジャズ鑑賞というのは、昨年秋にバーバラ・ヘンドリックスの公演を当地で聴いて以来のことだから、1年振りとなる。
この夜の公演名は「Kicks & Sticks」。
出演はドイツからのビッグバンドThe Hessen State Youth Jazz Orchestraとアメリカ合衆国から黒人歌手のKen Norrisのコンビ。ルーマニアツアーの最終日であったこの日に、ブカレストからトランシルヴァニア地方やオルテニア地方を周って再度ブカレストへ戻ってきた彼らはやや疲れている表情が見受けられた。
ドイツ人の常任指揮者Wolfgang Diefenbachがドイツ訛りの英語で時折曲やソリストについて話してくれ、息のあった演奏を聴かせてくれた。一方のKen Norrisもたくさんの楽しい話や冗談で会場の笑いを誘った。銀幕のエディ・マフィーの70%といえばご想像いただけるか。こちらはアメリカ訛りのイギリス語だ。よって小生の耳にはすんなりと入った。
演奏内容は、編曲家でもあるWolfgang Diefenbachが自慢の編曲ものからスタンダードナンバーまで幅広い選曲で楽しめたのだが、会場の聴衆はジャズ・コンサートに慣れていないせいか拍手や囃し声のタイミングが分らず(もしくは恐縮したのかもしれないが)、行儀の良いものであった。対照的に2階席に陣取った小生は、お構いなく手と口を動かすのだった。
途中休憩の直後、プレゼンテーターが本日の特別ゲストとして地元音楽高校に通う生徒を紹介した。少年は客席からステージへ颯爽と駆け上がった。そして「サマータイム」を歌うのである。このときの伴奏はピアノ、ギター、ダブルベースのトリオ編成。ジャスの基本楽器たちである。ブラス以外には、これらにヴァイオリンやクラリネットも基本楽器といっても良い。余談ではあるが、ジャズの世界ではヴァイオリンのことを「オリン」という。恐らく日本限定だと思うが。
実はこの少年の紹介を聞いた時に小生は大変驚いたのである。
このルーマニア人プレゼンテーターもイギリス語で話していたのだが、彼はこう言ったのだ。
「ルーマニアからはリトル・ニグロが特別ゲストで歌います」
「リトル」とは出演している黒人歌手Ken Norrisに対して、この生徒が若いもしくはプロでないという意味であろう。一方、続く「ニグロ」には、この生徒がジプシーということを限りなく直喩的に表している。
小生が驚く間もなく、ステージ上のKen Norrisやトリオ、客席までも笑顔と拍手で彼を迎えていた。今日の日本では、市民団体もしくは人権屋やプロ市民といわれる者たちに差別として解釈されても仕方ない使用法でもあったにも関わらずに、この笑顔と拍手。そして本人もはにかんだ顔で紹介を続けて受けている。このやり取りを見ていると実に爽やかな気分になった。暖房が効き過ぎた会場で音楽に盛り上がった小生には清々しかった。
さて、期待した特別ゲストの「サマータイム」だが、英語の発音は及第点としてもマイクロフォンの使用法がKen Norrisとは比べ物にならない。素質はあるだろう。
お陰で小生はクール・ダウンを行うことができた。
参考サイト
The Hessen State Youth Jazz Orchestra http://www.landesjugendjazzorchesterhessen.de
Labels: ブカレストの日常
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