BUCAREST FRANCOPHONE
先日ブカレストで世界的な催事があった。
BUCAREST FRANCOPHONE。フランス語である。
9月22日~30日の間に第11回フランコフォニー・サミットがブカレストで行われたのだ。
ところで、フランコフォニー・サミットとは、何であるか。「サミット」とは、英語で「頂上」を意味することは中学生の英語の授業で学んだが、日本では報道で見聞する「主要先進国首脳会議」という名詞で利用されることが多いように思う。ここから察するに最高会議の意味を想像する。そして「フランコフォニー」であるが、「フランコ」の箇所にフランスに関係があると想像する。「フォニー」は「Phone」であることから「音」だ。二つを合わせて「フランス語」と解釈した。そこで考え出た回答は「フランス語最高会議」。ただ、しっくり来ないので更に考えを進めて出た答えが「フランス語話者最高会議」。
周りのルーマニア人にも尋ねては見るものの、詳しく説明できる人間が小生の周りいに居ないせいか、それ以上の回答は返ってこない。それ以上の回答を望んだ小生の質問とは、こうだ。
「フランス語話者の最高会議が、何故ルーマニアで開催されているのか」
ルーマニアでの公用語はルーマニア語である。人口数はともかく少数民族としてあげられるところにおいては、ハンガリー語、ドイツ語、ブルガリア語等がルーマニア國内のそれぞれの地域で話されている。これらにフランス語は無いのである。一方でルーマニアとフランス両國との繋がり意外に強く、黒海と大西洋の距離ほど遠く考える必要はない。ブカレストが、かつて「東欧の小パリ」と呼ばれていたことからも伺え知れるだろう。因に、日本國内に溢れる「小京都」のようにインフレされた言葉と同一俎上にするべきではない。余談だが、ブカレストには凱旋門もあり、フランス人の人名にちなんだ住所(通りや広場名)が多くある。
さて、フランス語であるが、これも意外なことに通じる場合が多い。この言葉は、小生にはちんぷんかんぷんであり、フランス映画からエールフランス機内でのアナウンスに至るまで、シャンソンを聴き流すくらいな楽しみと興味しかない小生には、大変難しい言葉というイメージがあるだが、当地の人たちには理解する人が意外と多いのである。私の友人にも殆どは英語を話すのだが、その半分以上の数がフランス語が話せるという。そのなかの一人の両親は英語が出来ないが、訪問客の小生に気を遣ってルーマニア語でなくフランス語を話してくれたので、困ったことがあった。
また、近所に住む、年金生活者で音楽家だった老人はこう回答した。
「100年程前のブカレストでは、富裕層はその子をフランスに留学させていた」
地理的には近いと言えない両國であり、昔はそれなりの移動時間が必要だった故に、更に遠かったであろう両國である。地理的に言えば、戦後「東ヨーロッパとの唯一の接点」として情報が集まったウィーンであるべきだ。ウィーンには地理的という理由だけでなく、ハプスブルク家が崩壊するまではヨーロッパの首都と言っても良い都市であり学問も芸術も集中していたと考えられるからだ。
では、何故ウィーンを越えて、フランスへ向かったのか。
言葉の問題という読者諸氏もいるだろうが、これだけでは説得力に欠ける。ルーマニア語は確かにラテン語が起源となるフランス語と兄弟の関係である。併し、最も近い兄弟はイタリア語であることからも、決定的な回答とは言えない。
いずれにせよフランスという魅力的な目的地が当時からあったのは興味深い。このウエブログで既に何度か触れているオリエント・エクスプレスがパリからブカレスト経由でイスタンブールへ開通したのが1883年のことであるから、その影響も多少はあるのだろうか。
ここまで書いて、ふと思い出したことがある。
小生の友人がかつてルーマニア運輸省に勤めていた頃の話である。その晩、小生は彼とその細君を食事に招待し友好を深めていた時の言葉が忘れられない。
「ルーマニアとトルコとの鉄道輸送交渉の書類を明朝までにフランス語で作成しないといけないので、この辺で失礼するよ」
彼自身はフランス語ができても堪能という方でもないらしく、堪能な細君が付きっ切りで一晩頑張るとのこと。この時に、高校生時代に英語教師に「ヨーロッパの共通語はフランス語かドイツ語」と聞いていたことを思い出した。
その彼は今や民間へ転職し、一方の細君はいまだ彼の細君であるが、「細君」とは都合の良い漢字だなと思う程にまで、変身してしまった。
前置きが長くなってしまったが、フランコフォニーサミットについて調べたところ、その言葉の曖昧さに苦しめられた。まず小生がたどり着いた「フランス語話者最高会議」は、概ね一致していた。併し、その参加國(=構成国)は決してフランス語が公用語になっている國とは限らない。これは開催國のルーマニアが例えの筆頭と言えよう。また構成國と言っても、本加盟、準加盟、オブザーヴァーと3種に分けられる。ルーマニアは本加盟であるが、似たような國はヨーロッパ内でブルガリアとモルドヴァ。両國ともルーマニアの隣國である。他のヨーロッパ内の本加盟の國はいずれもフランス語が公用語として用いられてるところばかりである。本加盟國でありフランス語が公用語でない、ルーマニアのようなケースにはベトナムやレバノンが挙げられる。この両國は、既に第7回と第9回のフランコフォニー・サミットを開催している。
言葉の曖昧さに惑わされずに言うと、「フランス語話者がいる國(フランス語文化圏や旧植民地)とそれらとの関係の強い國で構成されている本加盟國を中心とした、政治的・経済的もしくは文化的発展を目指して構成された共同体の最高会議」と考えて良いと思われる。
気になった読者諸氏には、下記の参考サイトでご理解を深めることを薦めたい。
一方サミットには、モナコ公國のアルベール2世閣下やフランス共和國のジャック・シラク大統領閣下もブカレスト入りするというので、市内の警備は最高レヴェルで保たれていた。市内、特に中心部には警備関係の人間と車両がどこからでも目に付いた。反面小生の暮らす通りは普段は交通量が多いのだが、この間は一般車両の通行が禁止され、この1週間余りの間は平穏で素晴らしかった。他方、珍しい文化イヴェントが多く開催されたのは嬉しかった。参加國(取り分けアフリカ諸國)から出演したグループの民族楽器を使ったコンサートは良かった。
ところでこのサミットで何が採択されたのか。小生は全く無関心なので未だに知らないのであるが、シラク大統領閣下が演説で、この夏にイスラエルと実質交戦状態であったレバノンの参加を巡って議長國ルーマニアのバセスク大統領閣下を強く非難していたことだけは、知っている。
(10月3日執筆完)
参考サイト
BUCAREST FRANCOPHONE http://www.bfranco.ro/
l'Organisation internationale de la Francophonie http://www.francophonie.org/
長谷川秀樹フランス研究 http://www1.odn.ne.jp/cah02840/HASEGAWA/
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